ノベルズ読書日記その14

晴夜が読んだ本の感想を書いていきます。
評価は4段階  S=最高!! A=良かった B=イマイチ C=さいてー
基本的にネタバレありなので、ご注意ください!

索引

2009/5/28  評価 A(S寄り)
告白 湊かなえ 双葉社

我が子を校内で亡くした女性教師が、終業式のHRで犯人である少年を指し示す。
ひとつの事件をモノローグ形式で「級友」「犯人」「犯人の家族」から、それぞれ語らせ真相に迫る。
第29回小説推理新人賞受賞。「本屋大賞2009」受賞作品。


  面白かったです。ぐいぐい行きました。
  描かれている世界は、非常に暗い世界なのですが、とても楽しかったのです。
  私は、一人一人の内部に焦点を当てた作品が好きなのです。連作短編集なども大好物です。

  特にこの作品では、渡辺修哉くんという頭の良すぎる少年が、すごく良かったです。
  彼の視点で綴られる章が、この作品に広がりを持たせているような気がしました。
  彼の可哀相な境遇を読みながら同情し、だけどなんでそっちへ走るかね、と首をひねりながらもやっぱり可哀相と思い、最終章で、森口先生が、悲劇のヒーローを気取っても悪いものは悪いのだ、と断罪する展開も好きです。
  渡辺くんのキャラは面白いと思うし、同情はするけど、作品としては、ちゃんと切り捨てているところが良いのです。
  以前読んだ「野ブタをプロデュース。」などは、ひどく後味が悪かったけれど、この「告白」は断罪してくれたおかげで、読後感が悪くなかった。
  (調べてみると、人によっては、読後感が悪い!と言っている人も複数いるので、受け取る人によると思います)

  この作品には、3つの母子関係が出てきますが、比較するとやはり渡辺くんが気の毒なんだよね。
  彼だって欺された振りをしているだけで、母親が自分のところに戻らないなんてことは、とっくに(心の何処かで)分かり切っていたと思うのだよ。
  「マザコン」と他人をバカにするのだって、自分が母親を求めていることの裏返しなのだ。
  可哀相。でも、そっちに走ったらいかん!

  あー、それにしても久々に面白い本に出会えました。

2009/4/23  評価 A(B寄り)
CHICAライフ -2003〜2006年のできごと- 島本理生 講談社

付き合うのは問題のある年上男ばかり。
幽霊が見えるダンサーの母を反面教師に、恋愛の相性が完璧な弟を可愛がってみたり、引きこもる“ゲーマー”の彼と同棲してみたり。
まともなのは島本さんだけなのか、それとも…?
『ナラタージュ』の切なさはどこに?恋愛小説の名手・島本理生のリアルワールド。


  島本理生のエッセイ。
  もとは雑誌に連載されていたものをまとめた本。

  こう言ってはなんですが、読まなければ良かった……。
  何故かというと、島本理生のイメージが崩れたからです。
  そもそも島本理生との出会いは、新聞のコラムでした。ものすごく理性的で老成した文章に、書き手が当時高校生だと知ってものすごく驚いたものでした。
  こういう人のことを文才があるというのだ、と本気で感心しました。
  その後、小説「リトル・バイ・リトル」を読み「シルエット」を読み、「ナラタージュ」を読んだのです。

  まあ、勝手にイメージを作り上げた私も悪いのですが、でもいくらエッセイといっても、あの新聞コラムのようにはせめて書いて欲しかったのだ。
  連載されていた雑誌が「ViVi」だからいけないのか。
  これではただの、普通の文章じゃないか……。
  それと、彼女の同居人との話が後半出てくるのですが、この男の人がちょっとキモくて、(いや、ちょっとどころじゃない) これでまた引いてしまったのだった。
  まあ、人の好みは好きずきだし、誰が誰を好きでも別にどうでもいいのだが、でも、読むと目の前に人の像が浮かぶではないですか。
  ……大学の時、同じクラスに居た男の子たちを思い出しました。はあ。

2009/4/18  評価 A(S寄り)
流星の絆 東野圭吾 講談社

惨殺された両親の仇討ちを流星に誓いあった三兄妹。
「兄貴、妹は本気だよ。俺たちの仇の息子に惚れてるよ」
14年後―彼らが仕掛けた復讐計画の最大の誤算は、妹の恋心だった。


  面白かった〜! 
  ドラマを見ずに、予約2000件以上待って読んだ甲斐があった。
  導入部からその後の展開、帰着点に至るまで、何もかも読ませるし続きは気になるし、楽しく読書できました。
  こんなに楽しい読書は久しぶりかも? 

  3人の兄妹の関係も良いけれど、やはり長男・功一がすごく良かったのです。
  終始落ち着いているし、頭はいいし、度胸はあるし、戸神行成と二人で会話するシーンなど、両巨頭対決な感じがしてワクワクしました。
  二人は似ているかも、とまで思ってしまいました。
  長身だって書いてあるし、ドラマ見ていないから本当は言わないのがルールなのかもだけど、二宮くんだとちょっとイメージ違うかも。

  あ、あと、上記あらすじや、本に巻いてある帯に「妹の恋心」のことが書いてあるけれど、これを煽り文句に使うのはどうなのか、と読んでみて思いました。
  本を売るためには仕方ないのかもしれないけど、本筋とはずれているよね。嘘じゃないけどね。

  東野圭吾は面白いなあと再認識でした。
  ただ、面白いけど、買って保管しなきゃーとまでは感銘を受けないところが、S評価でない理由ですかね。

2009/4/11  評価 B(A寄り)
静かな爆弾 吉田修一 中央公論新社

テレビ局に勤める早川俊平はある日公園で耳の不自由な女性と出会う。
取材で人の声を集める俊平と、音のない世界で暮らす彼女。やがて恋に落ちる二人だが。


  朝日新聞の本特集で、以前紹介されていた。
  「仕事人間の男性が耳の不自由な女性と出会って恋に落ちる」小説だということで、どんなものかと読んでみた。
  が、そのままであった……。
  まあ、ただの恋愛小説っていうわけではなく、随所に作者のメッセージ(というか日々の思い)がエピソードとして書かれてあって、考えさせられる部分もあった。
  たとえば、アパートの騒音問題や、隣人に直に抗議せず大家さんを通すために却って真実から遠くなっていったり、喫茶店で隣の人たちの会話が丸聞こえだったり、そういうエピソードにより、健常者は音を聞く能力を持っているといっても、外界の音がどのくらい重要なものか、実はそんなに重要でないのではないか、それよりももっと大事な物があるのでは、などの問いかけを感じた。
  また、この作家特有の表現なのか、まったく同じ場面を繰り返し登場させる手法が珍しく、少し驚いた。(何回も使うので、効果は半減か)

  恋愛小説としては、全体的には私の心には響かなかった。

  まあ、私も悪いのだ。
  男女の恋愛は苦手だと自覚しているんだけど、物によっては良い物もあるし、恋愛だから×とするのはやっぱり勿体ないので手が出てしまうのだ。
  で、結果的に「失敗だった」と感想を書く。
  なんか学習能力が無いね。
  ケーキもそうでさー。買う時はわくわくなんだけど、食べると予想外に甘くて、「食べるんじゃなかった。もう買わない!」と思うんだよねー。

2009/4/8  評価 A
恋愛少女漫画家 一条ゆかり 集英社文庫

「あの子は漫画家になるのに必要なもの以外はすべてを切り捨てた!と姉が私の青春時代のことをそう言っていたように10代の頃の私は偏っていたかもしれない。それでも悔いナシ、です」と少女漫画家一条先生は言い切る。
いつでもパワフルに道を切り開いてきた先生の生き方は、やることがみつからない!と悩んでいる人にとって格好の道案内となるはず。
エッセイスト・岡部まりさんとの対談も収録。


  一条ゆかりのマンガは好きだし、この↑カバーの文章。
  「道案内」ですよ、道案内。そりゃ、読むしかないね、と買ってしまいました。
  一条さんの生い立ちから現在に至るまでのエッセイ。
  大変興味深かった。
  たしかに、ものすごい信念のもとに、人生を切り開く人であった。
  匠になりたい、とあったが、既に完璧な職人であると感じた。
  こういう人生を送らなければ……。

2009/4/5  評価 A(B寄り)
西の魔女が死んだ 梨木香歩 新潮文庫

中学に進んでまもなく、どうしても学校へ足が向かなくなった少女まいは、季節が初夏へと移り変るひと月あまりを、西の魔女のもとで過した。
西の魔女ことママのママ、つまり大好きなおばあちゃんから、まいは魔女の手ほどきを受けるのだが、魔女修行の肝心かなめは、何でも自分で決める、ということだった。
喜びも希望も、もちろん幸せも…。その後のまいの物語「渡りの一日」併録。


  いまだに中高生に読まれている本らしいので、読んでみた。
  非常にシンプルで、「がばいばあちゃん」的でもあり、「オーラの泉」的でもあった。
  おばあさんが外国人なので、昔の人の生活の知恵といっても、ジャムやサンドイッチを作ったり、ハーブが出てくるところがお洒落かも。
  心に残ったのは、やはりキーとなるメッセージです。
  ネタバレも甚だしいので詳細は省きますが、こんなものを見たら、そりゃ泣いてしまうだろうと。
  そして一気に心の繋がりを感じました。温かくなるお話でした。

  しかし、中学生という多感な時期に、こういう人と時を過ごせるというのは、非常に羨ましいことです。
  心の奥底で話ができる人が居る、というのは、本当に力になるし、人生の財産になると思います。

  巻末に、まいちゃんの後日談(引っ越した先でのエピソード)がありますが、これはあってもなくてもいいかなー。

2009/4/1  評価 A
神と野獣の日 松本清張 角川文庫

「重大事態発生です」
ある早春の午後、官邸の総理大臣にかかってきた、防衛省統幕議長からの緊急電話が伝えた。
Z国から東京に向かって誤射された、5メガトンの核弾頭ミサイル5基。
1発で、東京から半径12キロ以内が全滅するという。
空中爆破も迎撃も不可能。ミサイルの到着は、あと…43分。
ラジオ・テレビの臨時ニュースによって、真相が全日本国民に知らされた!


  あらすじを読んで、呆然。まさにタイムリーというか……。季節も早春だし。
  でも書かれたのは1973年なのです。
  巻末の解説にも、現実にはあり得ない設定、というような書き方がされていましたが、まさに今現実です!! あり得ないどころか。
  この作品は、松本清張唯一のSF作品だそうで、SFっていうか、今や現実なんだってば。

  ま、そういうことは置いておいて。
  同じような着想の小説はいくつもありますが、短いページ数で、これだけシンプルでリアリティ溢れる作品はさすが巨匠という感じです。
  本当にリアルです。
  第一報を受けた総理が国外逃亡し、少し遅れて情報を知らされた国民は東京都内から離れるべく逃走。
  我が身可愛さに人を押しのけ、交通ルールも社会秩序もあったものではなく、大パニックです。
  だけど、政府には国民のパニックは伝わらず、「国民は冷静に移動している」などと報告が行くわけです。
  笑ってしまうのが、諸外国から人権擁護の観点から、刑務所の囚人を解き放つべきだという要請が来ること。
  政府は、様々な計算により、囚人を解き放つのです。とんでもないでしょう?
  当然というか、解放された囚人をはじめ、逃げ遅れ自暴自棄になった人たちは暴徒と化し、暴力を働き女性を襲い、もう文字通り「野獣」なわけです。
  何もかもが、本当に起こりそうで、怖すぎます。

  松本清張の本は実は初めて読みましたが、とても冷静な描写が大変読みやすく、良かったです。

2009/3/26  評価 A
続 あしながおじさん ウェブスター 新潮文庫

  「続」といっても「あしながおじさん」の続編ではなく、むしろスピンオフでした。
  時系列的には続編ですが。
  ジュディの親友サリーが主人公で、ジュディの育った孤児院の院長に就任し、孤児院改革をする話です。
  もともとは、ジュディが夫(ジャーヴィス)から、「ジョン・グリア院の改造」をクリスマスプレゼントにもらったのであり、むしろサリーは巻き込まれた形。
  なので最初はサリーは乗り気ではなく、早く次の院長を捜してもらって自分は引退したい、と言っていたのですが、取り組んでいくうちにジョン・グリア院の問題点がいろいろ見えて来て、できることを少しずつ改善していくうちに、すっかりはまってしまって、彼女の生き甲斐になっていく。
  子供達に畑仕事をさせたい、とか、子供たちが来ている青いギンガムチェックの服をやめて、好きな服を選ばせたいとか(年長の子たちに裁縫を覚えさせ洋服を作る)、テーブルマナーを学ばせ外に出ても困らないようにしたいとか、こうしたい、ああしたい、とどんどんアイディアを出して、改善の疎外要因となる保守的なスタッフを解雇し、意気投合して精力的に動いてくれるスタッフを集めるなど、本当に精力的に活躍する。
  この展開は、まさに、起業にはまる現代女性を見るようだった。
  しかも、彼女には許嫁がいるのだが、最終的に、彼(政治家)とのオーソドックスな結婚生活を送ることをやめ、仕事のパートナーであるロビン・マックレイ医師を選ぶ。
  この辺りも現代女性に通じるよなー、と感じた。
  なんのために結婚するのかと悩む場面があり、考えた末に許嫁と別れることを決め、その解放感をうたっている箇所があって、思わず共感しました。

  ところで、この「続 あしながおじさん」の原題は「Dear Enemy」です。
  この本も前作「あしながおじさん」と同様、手紙で構成されている(サリーが書いた手紙のみ)のですが、サリーからロビン医師への手紙の書き出しが「Dear Enemy」なのです。それがタイトルとなっております。
  (なお、「あしながおじさん」の現代は「Daddy Long Legs」です。「おじさん」ってより「パパ」だったんだね)

2009/3/18  評価 S(A寄り)
あしながおじさん ウェブスター 新潮文庫

孤児ジュディが、正体不明の「あしながおじさん」から援助を受けて大学に通う。
あらすじ不要、誰もが読んだはず、児童文学の名作。


なぜ、今頃になって「あしながおじさん」を読んだのか。
それは、3月7日の朝、「あしながおじさん」と「続あしながおじさん」を2冊セットで、本屋で購入する夢を見たからである。
なんでその本なのよ(笑)。
そんな夢を見てしまっては、読まずにはいられない。
夢の中と同じ、新潮文庫版を早速読んでみた。

もちろん初読ではない。
小学生の頃に読んだ記憶がある。
子供の頃の印象としては、手紙文が長くて、あんまり面白くなかったような。

が、今の年齢で読むと、これがすごく面白い小説だったのだ。

まず、私は、主人公のジュディではなく、あしながおじさんの視点に立ってしまった。
あしながおじさん(長いので、以下A氏とする)は、名前不詳、年齢不詳、なにもかもを隠してジュディを援助する。
ジュディは、月に1度、状況を記した手紙をA氏に送ることだけが義務づけられている。(A氏は返事は出さない)
もともとA氏は、ジョン・グリア孤児院の孤児をこれまでも何人か援助して、大学に通わせたことがあるが、いつも男の子ばかりだったので、今度は女の子を、と、ジュディに白羽の矢が当たった。
これまでジュディは中学までしか行っておらず、毎日のほとんどを孤児院の子供たちの世話に追われて過ごしており、初めて孤児院以外の場所で暮らすのだ。
見る物、聴く物、初めてのことばかり。同じくらいの女の子たちに囲まれるのも、たわいないおしゃべりも、大学の授業もサークルも、寮生活も、とにかく何もかもが新鮮で楽しくて、必然的にA氏への手紙も、毎日の楽しみや喜びなどを綿々と綴り、熱の籠もったものすごい分量になる。
月に1度どころか、もっと短いスパンで、どんどん送る。
ジュディは文章を書くのが好きな女の子なのだ。

で、本編は延々、というか序章以外は全部、このジュディからA氏への手紙で構成されているのだ。
つまり、ジュディからの手紙を読む私は、A氏と同じ立場なわけである。
で、思ったのだ。
A氏は、ウォール街で活躍する超お金持ちなのだけど、つまり毎日朝から夜中まで働きづめで、人と会うのも駆け引きばっかりで、表面上のつきあいばかりで、それはそれはカサカサした毎日なのではないか。(これは私の想像ですが)
そこに、喜びに満ちあふれた、キラキラしたお手紙が送られてくるわけです。
学費や仕送りを出しているのは自分だけど、その援助をこんなにも喜んで受け取ってくれる人がいて、こんなにも明るく楽しく素直なお手紙が送られてくれば、そりゃあもう、幸せな気分になりますよ。
ある意味、お手紙は毎日の支えですよ。
私だって、そんな手紙がしょっちゅう送られてきたら、手紙が来るのを心待ちに毎日を送ると思うもの。

そうすると、分かっちゃうのです。
きっと、ジュディに会いたい、話してみたいと思うだろうな、と。
そう思っていると、ジュディの手紙に一人の人物が登場する。
ジュディのクラスメートの親戚だという男性です。
「あ!」と思ったね。こりゃ、A氏に間違いない、と。
こいつ、とうとう会いに行きやがった!! 私は読みながら、笑い出しそうになりました。
しかも、1年経っていないうちに、です。1年も我慢できなかったのか、と思うと、可笑しくて可笑しくて。

また、2年後だったかな、ジュディが親友サリーの別荘地で夏を過ごしたい、と手紙を送ると、A氏は大反対をする、という場面が出てくる。
ジュディはどうしても行きたい、と、切々と何度も訴えるのですが、A氏は承諾しない。
……それは、嫉妬なのだ。
A氏は、サリーの兄に嫉妬しているのだ。ジュディを取られるんじゃないかと。
ここでも私は、にやけそうになりました。

というわけで、ジュディ視点の手紙ばかりが綴られているというのに、A氏の行動がえらく可笑しくて。

ラストも、お決まりでありつつ心温まるハッピーエンドで、なんか心躍る感じ。
本当に楽しく読みました。続編も楽しみです。

2009/3/13  評価 A(B寄り)
近藤勇 秋山香乃 角川ハルキ文庫

「誠」の旗印の下、反幕派の男たちを戦慄させた鉄の組織、新選組。
局長の近藤勇は、盟友土方歳三、沖田総司らとともに、京都で任務に励んでいたが、徳川幕府の屋台骨は徐々に崩壊していた。
愛する妻子と女を残し、歳三らとともに没落する徳川家に殉じ、義と忠と夢に命をかけた男を描く、書き下ろし時代長編。


  近藤が主役であっても、やはり魅力的なのは土方さん。
  秋山さんの本はいつもそうなので、そこは素直に楽しみました。
  読みながら、例の三部作との関係をすごく考えました。
  なんとなく、三部作よりも前の作品なのかと、つまり原型なのか、と勝手に想像していましたが、どうも違うようですね。
  三部作の後に発行されているみたいです。
  三部作での藤堂・土方の関係は一切書かれず、山南の設定が少し異なっています。
  山南は、三部作では、土方さんをかばい、それで身体を壊したようになっていましたが、本作では労咳であった、と。うーん。

  本作は、どちらかというと、伊東に結構ページを割いていました。
  「藤堂平助」で描かれていた伊東と少しキャラが違ったようにも思いました。
  ただ、やはり、この本は「近藤勇」なわけで、もう少し近藤を描いた方が良かったのでは、と。
  たとえば、甲陽鎮撫隊での体たらく(甲府に行くまでの間にノロノロ進んで故郷でどんちゃん騒ぎなど)の伏線として、撃たれた肩の怪我がすごく酷かったことや、本当は甲府で死にたかったことがあり、なるほどねえとも思ったのですが、永倉たちから糾弾された「家来発言」や京での思い上がったような態度については、特に釈明みたいな設定はなくて、ちょっと物足りなかったです。
  また、近藤・土方の最大の山場は流山だと私は思っているのですが、その流山がえらく薄く浅かったのが残念でした。

  私は土方贔屓なので、土方さんに忠節を尽くす山崎や島田が大好きなのですが、この本はほんの少しではあったけど、山崎が出てきて嬉しかった。
  山崎が息も絶え絶えな中、「副長」と呟くところは、ぐっと来ました。
  山崎主役で小説書いてくれないでしょうか、秋山さま。
  なにとぞよろしくお願い申し上げます。

2009/2/28  評価 A
テンペスト 上下 池上永一 角川書店

時代は江戸時代後期。
清国と薩摩藩との間で絶妙のバランスをとりながら、独自の政治文化を育んでいた琉球王朝。
ある嵐の夜、竜の化身とも言うべき、美少女・真鶴が誕生する。
男子誕生を待ち望む父から疎まれ、当初は名前すら付けてもらえなかった真鶴だったが、持ち前の好奇心と向学心で勉学に励む。
養子である兄が、勉学の厳しさに逃げ出した後、真鶴は父により男装させられ、塾に通い、難しい試験である科試(こうし)に合格。
岐路に立たされる琉球王朝を救うため、真鶴は宦官・孫寧温として活躍する……。


  面白かったです。
  琉球のことは、まったく知らなかったので、本当に未知の世界のお話でした。
  しかも、時代が幕末だったのです。いや〜、世の中には知らないことがたくさんありますね。
  考えてみたら、日本史の授業でも琉球のことは、尚巴志が建国?したこととか、江戸時代に薩摩と直接の関係があったとか、そのくらいしか習っていないような。
  こんなに独自の文化を繰り広げていた王国だったとは、びっくりでした。
  wikipediaで「琉球王国」で検索してみて、テンペストの世界観が現実だったのだと思い知りました。
  国王は首里天加那志(しゅりてんがなし)、王族女性が任ずる最高位の巫女(でいいのか)が聞得大君加那志(きこえおおきみがなし)。
  もう今では御殿をウドゥン、親雲上をペーチン、御内原をウーチバラ、遊女をジュリなどなど、ルビが無くても読める身体になりました。

  とにかく華やかで美しい世界です。
  読むだけで、きらびやかな色彩が脳内に広がるのです。
  美しい衣装や、舞台となる首里城が、脳内にド〜ン!です。
  登場するのも美男美女の嵐。
  それはそれは美しいのです。
  小説よりも、ドラマとかアニメとかの方が向いているかも知れません。

  というのも、主人公の設定が、どうしても無理が出てくる。
  あらすじにも書きましたが、少女が男装し、「宦官」として、男性社会で活躍する話なのです。
  そのくらいならまだ良いのですが、いろいろなことがあり、拷問を受けるシーンがあったりします。
  が、それでも彼女が女だとばれない。拷問を受けたら、いくらなんでも女だとばれるだろうと思うのですが、その辺りが作り物めいていて引いてしまうのです。
  また、男装して寧温として活躍し、早変わりして女性に戻って王の側室として仕えるというのも、常識的には無理な話だろうと。
  小説という媒体だと、どうしても頭で考えてしまうので、現実味が薄いと引いてしまうのですが、アニメやドラマであれば、多少の無理も映像でなんとか押し切ってしまえるように思うのです。
  また前述のきらびやかな美しさも、映像の方が向いていそうです。
  大河ドラマでやらないかなー。(いろいろ無理だろうが。日中関係とか)

  実は、上巻を読んだときには、それほどのめり込めなかったのです。
  巷で面白いと、ものすごく評判だけど、そうかー?と思っていたほどです。
  でも下巻になって、ペリーが来航した辺りから面白くなりました。

  私は、ペリーが浦賀に行く前に琉球に立ち寄っていたことを、まったく知りませんでした。
  このような形で黒船を追いやっていたことは、どれほど琉球の役人の能力が高かったのかの証明だと思いました。
  現実には寧温は居ないわけで、おそらく実際には高官が知恵をしぼって行った外交だと思うので、本当に素晴らしいと感動しました。
  誰もが行ったことのない危機的な外圧をはねのけるなんて。しかも言葉の通じない異国人。
  (wikipediaで見たら、ペリーが琉球に立ち寄った、と書いてあったので、フィクションではないのですよね?)

  真鶴のライバルである真牛は、非常に憎たらしいキャラでしたが、実に強く美しい人でした。
  不屈の精神には頭が下がります。「海でやられたら海で取り返せ」という科白には、拍手喝采でした。
  また、真鶴の親友である真美那は、本当にいい子で、一人で頑張ってきた真鶴に神様がくれたプレゼントのように思えました。

  でも一つ、疑問があるのです。
  上巻の後ろの方で、新しい聞得大君がなかなか決まらず、確か真鶴の身体に龍が飛び込んで、荒天がおさまったように思ったのですが。
  それは、真鶴が聞得大君になった、ということなのではないのでしょうか?
  ここだけがどうしても分かりませんです。(何かを読み飛ばしてしまっているのかもしれないですが)

  
2009/2/18  評価 B
ダブル・ファンタジー 村山由佳 文藝春秋

奈津・三十五歳、脚本家。
尊敬する男に誘われ、家を飛び出す。
“外の世界”に出て初めてわかった男の嘘、夫の支配欲、そして抑圧されていた自らの性欲の強さ。
もう後戻りはしない。女としてまだ間に合う間に、この先どれだけ身も心も燃やし尽くせる相手に出会えるだろう。何回、脳みそまで蕩けるセックスができるだろう。
そのためなら、そのためだけにでも、誰を裏切ろうが、傷つけようがかまわない。「そのかわり、結果はすべて自分で引き受けてみせる」。


  シナリオライターの女性が、夫の呪縛から逃れ良い作品を書くために(好きな男に会うために?)家を出て、奔放に快楽を極める話。
  読み進めていくうちに、なんだか焦点がぼけていると感じた。
  一番言いたいテーマは何?

  主人公の設定が著者本人とかぶるのもあざとい気がしたし、こんなに次々周囲に男が現れ、とっかえひっかえなのもどうかと思った。
  あ、主人公の設定というのはね、夫婦二人で田舎暮らしを楽しみ、自分の好みで造った家に住み、畑で自ら耕した野菜を食し、動物に囲まれて暮らしていた。が、ある時主人公(妻)が東京に単身出てきて、高級マンション(高層階と思われる)に一人暮らしをする。家の中はまたぞろアンティークに囲まれた住まい、という設定のことです。  これでは、そのまま村山由佳本人のことじゃないの。
  でもこの「ダブル・ファンタジー」はあくまでもフィクションなわけですよ。設定が似ているだけで、別に著者本人の暴露本でもなんでもないわけです。
  ならば、別に主人公と本人の設定をかぶらせなくても良いでしょうよ。

  やはり、最後は夫を出さねばならないと思うよ。
  ここで夫と決着を付けないで、最後の最後にまだ新キャラを出すかと呆れたほど最後に登場した男とラストシーンを迎えているが、こういう構成だからぼけるんだと思った。
  むしろ前半の、夫と主人公の関係が(これも呪縛というほどには思えなかったけれど)、妻が稼いで夫が無職、ということが引き金になっての確執ならば納得もいく。
  夫が無職で何が悪いと開き直ろうにも男性には男性なりのプライドがあって、妻に喰わせてもらっているというところに卑屈な鬱屈があったりするとか。
  また、現実に、不況の煽りを受けて夫が無職になり妻の稼ぎで生計を支えているという家庭も増えているでしょうし、ここに焦点を当てて書いていけば、まだ良かったかも知れない。
  省吾(夫)はその鬱屈を上手く昇華し、妻をサポートすることを生き甲斐にしていたわけで、ある意味気持ちの持ち方の転換の成功例とも言えるのかも知れないし、省吾を中心に見てしまうと兄妹みたいな関係から脱却したいと願うのは妻のエゴという気がする。
  妻の気持ちも理解しようとしてできなくはないけど、家を出てその後、男をとっかえひっかえして性愛に走られると、この女は一体なんなんだ?!と反発すら感じる。

  しかし、ほんと、なんでこの小説書いたんでしょうか。イメチェンの一環か?

2009/2/13  評価 A(B寄り)
誘拐 五十嵐貴久 双葉社

韓国大統領来日。歴史的な条約締結を控え、全警察力が大統領警護に集まる中、事件は起きた。
総理大臣の孫娘が誘拐される。
全く痕跡を残さない犯人に、大混乱に陥る警視庁。
謎が臆測を呼び、臆測は疑念に変わる。犯人の狙いは何なのか。


  誘拐モノは結構好きだ。
  特に、警察と犯人の唯一の接点である、身代金の受け渡しが一番の肝だと思う。
  事件モノはあまりそそらないのだが、この身代金受け渡しだけは、犯人にとって危険な賭の場であるがために、弱さが出る瞬間でもあり、警察との攻防があったりして、ちょこっと萌える。楽しい。
  主人公が犯人であっても警察であっても楽しい。

  本書は文字通り「誘拐」の小説であり、そういうハラハラドキドキを楽しみにしていた。
  実際、ラストまで真相が分からず、そういう意味では最後のページまで楽しめた。
  だけど、萌えなかったのだ。残念だ。
  時代背景も、登場する人物の設定も、現代の経済危機や格差社会を反映した物となっており、犯人の境遇に同情するし、良い作品の要素があると思う。
  だけど、そそらなかった。熱を持って読めなかった。
  その分だけB寄りである。
  ストーリーを追うだけならばA評価である。
  登場人物に色気が足りないのが要因かもしれない。分からないけど。

2009/2/6  評価 A
狂血 <immigrant and illegal immigrant, and imposter> 五條瑛 双葉社

不法滞在外国人を厳しく取り締まろうとする新法案は、その裏に国家を揺るがす程の重大な秘密が隠されているようだ。
日本人とも多国籍とも違う、全く新しい血を持つ時代の申し子たちが、古い呪縛を壊し、新しい世界を支配していくのだろうか。
“革命小説”シリーズ第7弾。


  革命シリーズ7冊目。本当は去年の初夏に発売になっていましたが、今頃読みました……。
  しかし、もっと早く読めば良かった。面白かったです。
  7冊目だってのに、また新たなキャラが登場。
  このシリーズは全10巻予定なのに、あと3冊で本当にまとまるのかな。
  と言いつつ、先は気になるけど、終わってしまうのは惜しいです。

  たくさんの登場人物が、あちらこちらで色々な動きをしているので、情報を逃さないように細かいところもチェックしながら読むのが大変でした。
  科白の中に、別のキャラの情報が出てくるので、アンテナを張って読む感じです。

  それにしても、このシリーズは大作ですね。
  話の展開も、登場するキャラクターの人物造形や配置も、何もかもが面白い。

  気になったのは、この本では名前しか出なかった、国輝塾の田沼さん。
  今頃何をしているのか……。次巻で出るといいな。
  あ、そうそう、「新選組」の文字が、ト書きにあり、ちょっと嬉しかった。(まあ国粋系の箇所だけどね)

  今回は、亮司がたくさん登場しました。
  リャンじゃないけど、亮司にはこうした事に関わらないで、穏やかにギャラリーのオーナーをやっていて欲しいものですが。

2009/1/17  評価 B(A寄り)
総司 炎の如く 秋山香乃 文春文庫

万延元年、江戸の天然理心流の道場・試衛館で日々近藤勇や土方歳三らとともに剣術修行に明け暮れる十七歳の沖田総司は、幕府の浪士組に参加し上洛する。
新撰組隊士となった総司は、芹沢鴨暗殺、池田屋事件と幕末の京の街を疾走する。
信じるもののために燃焼し尽くした総司の生涯を描く新撰組三部作完結篇。


というわけで、本書は「3部作」の完結編と位置づけられているのです。
 1作目 「歳三 往きてまた」
 2作目 「新選組藤堂平助」
 で、3作目が 「総司 炎の如く」です。 (あ、炎は「ほむら」と読むです、はい)

この日記において、1作目と2作目について熱烈に感想を書いてきました。
どれだけこの2作品が密度が濃かったか。
そして、2作目を読んで思ったことは、発行順は1→2だけど、読む時には、2→1とした方が分かりやすい(つうか、つながっている)ということでした。
この2冊は、一見すると別個の作品のようですが、がっちり噛み合って、2冊で1作品となっているのです。
で、この完全に終結している2冊に、一体「3部作」の3冊目はどのように絡んでくるのだろうと、興味を持っていました。
だってこの2冊については、もう、他に何物も介入の余地がないのです。
言い方は変ですが、土方と平助の間には、沖田の入る隙間は無いわけです。

で、読んでみて分かったこと。
「総司 炎の如く」は、前2冊と絡んでいない!!! ということでした。

やっぱそうでしょ。だって隙間なんて無いんだもん。

むしろ、この本は、「新選組概説」のようになっていまして、初めて触れる新選組本とするのに相応しい、教科書のような本です。
淡々と新選組の成り立ちから、変遷、瓦解に至るまでが描かれております。
主人公は、沖田です。
2作目「藤堂平助」の主人公は平助でなく土方でしたが、この3作目はちゃんと沖田です。
1〜2作目の粘着的な愛着が、あまり感じられません。
沖田を主人公にすると、こうなってしまうのでしょうか。
秋山さんの「からくり文左」シリーズを読んだ時にも思ったことですが、土方さんが絡まないと、この人の文章はこんなにも淡泊?

普通の新選組ファン、もしくは、新選組ビギナーは、まずこの「総司 炎の如く」を読んでもらい、更なる興味が湧いたら、2作目「藤堂平助」を読み、もっと興味が湧いたら1作目「歳三 往きてまた」を読みましょう。
という感じです。

土方ファンは、むしろ3作目を読まなくても全然OKです。
読んでもいいけど、読まなくても問題ない感じです。

というか、この3冊、「3部作」って言わない方がいいのではないでしょうか。
前2作と、3作目は明らかに異なっています。
私はやっぱり前2作の方が好きですねえ。前2作の土方への愛情、濃縮還元120%みたいな、おなかいっぱい加減がたまりません。
息ができないほどの濃密さ。愛情に裏打ちされた作り込みが大好きです。
なので、「総司 炎の如く」は物足りなくて、読書速度も落ちてしまいました。

2009/1/5  評価 B
ブルースカイ 桜庭一樹 ハヤカワ文庫

西暦1627年、ドイツ。魔女狩りの苛烈な嵐が吹き荒れるレンスの町で、10歳の少女マリーは“アンチ・キリスト”に出会った…。
西暦2022年、シンガポール。3Dアーティストの青年ディッキーは、ゴシックワールドの昏い眠りの中、絶滅したはずの“少女”というクリーチャーに出会う…。
そして、西暦2007年4月の日本。死にたくなるほどきれいな空の下で…。
3つの箱庭と3つの青空、そして少女についての物語。


  うーーん。SF? うーん。
  中世のドイツや未来のシンガポールの側から話を展開しているから、意外性があったけれど、あんまり好きな話ではないです。
  第1部の世界観は第2部の創造物だったの?と期待して読んでいたため、第3部で拍子抜けてしまいました。
  (もっともその想像の場合、帰着点がイマイチかも知れないですが) 
  せっかくのマクシミリアンのキャラが生きずに、もったいない。いいキャラだったのに。

2009/1/4  評価 A
瓦礫の矜持 五條瑛 中央公論新社

行政監視を目的とするNGO職員の神楽は、国際的イベント(プレW杯)を間近に控える東北最大の都市に赴任してきた。
調査対象の新設の警察部隊の警官は不良警官ばかりだった。
神楽は部隊長に面会を求めるが……。


  警察に恨みを持つ人等を集め、一泡吹かせるために周到な計画を練って、それを実行に移す話。
  個性的な様々な人々をどんどん登場させ、漠としたところから徐々に真相に迫っていく作りなど、五條さんの真骨頂で楽しめました。
  相変わらず五條さんの文章は大変読みやすく、この先どうなってしまうのかと気になって、グイグイ読ませられます。
  新春一発目の読了はこの本でした。
  五條さんには珍しく(と言ってもいい?)、ラストも帰着点があるので、良かったです。安心しました。
  ただ、読後、何が残るかというと、……。ちょっと小さくまとまりすぎな感もある?
  プラチナシリーズみたいな、国をまたにかけたスケールの大きな話を比べてしまうと、ちょっと。
  まあ楽しい読書という意味でのA評価です。

2008/12/26  評価 A(S寄り)
人間の條件 全3巻 五味川純平 岩波現代文庫

植民地に生きる日本知識人の苦悶、良心と恐怖の葛藤、軍隊での暴力と屈辱、すべての愛と希望を濁流のように押し流す戦争…「魂の底揺れする迫力」と評された戦後文学の記念碑的傑作。


  上巻は、梶が軍隊に入る前、中国人奴隷や朝鮮人労働者の労務管理をするに当たっての葛藤を中心に描かれていたが、中巻では、軍属となった梶が古年次兵たちに暴力を振るわれながらも信念を持って生きていく様子が描かれている。
  また、下巻は、鮮満国境、最前線でロシアの圧倒的な攻撃により部隊が殲滅され、奇跡的に生き残った梶たち4人が、もとの暮らしに戻るために、半島を流浪する様子が描かれる。
  この3冊とおして2年くらいの出来事である。
  1冊が600ページくらいある本なのだが、その原稿枚数のことだけでなく、ものすごい大作である。というのは、作者の五味川さんの略歴を見ると、主人公の梶とオーバーラップする部分が大変多く、実体験や自分の思いをふんだんに盛り込んで書き上げたことが分かるからである。
  感想は、一言ではとても言えない。なんと言っていいか分からないくらい、壮絶な人生がここにある。
  そして、この壮絶な人生は、当時の日本人にとっては特殊なことではなく、誰もが辿ってきた道であったと言える。
  戦争という、間違った国策により、多くの国民が人生をねじ曲げられた。
  読み進めば読み進むほど、あの時代は一体なんだったのか、と思ってしまう。

  上巻で、日本人が中国人や朝鮮人に対して行ってきた蛮行、中巻で、古年次兵たちが初年次兵たちに行った暴力の数々は筆舌に尽くしがたく、本当にこれが日本人の行為なのかと目を覆いたくなるような場面がたくさんあります。
  読みながら思ったのは、たとえば戦争でない世、帰国して普通の日常生活を送っていたとしたら、彼らはものすごいマイホームパパだったりするのかもしれない、ということでした。
  戦中教育の恐ろしさ、行きたくもない外国に飛ばされ、銃を持たされ、恨みもない相手と戦わなければいけない、戦争という狂気の沙汰が人の生活を変え、性格も変えたのではないか。
  人生を捨て明日命を投げ出さねばならないというストレスがそうさせているのかも知れないけど、(自分の行動に疑問を持ったら非国民とされるのもその理由か)、つまり、人間はどこまでも残虐になれるということを60年前に証明したわけです。
  繰り返してはいけない、と言う言葉がどんどん風化している現在の状況は憂うべきものだと思います。
  こんな世の中に逆戻りしないように、きちんと情報を得て、しっかり見て判断しなければいけない。

  それにしても、下巻は辛かった。可哀相で可哀相で。
  自分の心に正直であり、真摯に向き合ってきた梶がこんな末路を辿るのは、許せなくもあります。
  それまで誰よりも心が強かった梶が急にボロボロになったのは、銃をなくし、守ってきた若い寺田が死んでしまって、梶を支えるものがなくなった、ということなんだろうなと。それに、日本が負けてロシアの支配になっても結局強者主導の政治で、正義や公平が通らない世の中だと分かって絶望したのだろう、と。
  でもやっぱり、夢想してしまうのです。
  あのあと梶は帰宅して、2年間の空白を埋めるように結婚生活を再スタートして、幸せに暮らしているところ、鳴戸や丹下、寺田、山浦、新城、影山少尉らが遊びに来て、「あのときは大変だった」「あのときの梶さんは凄かった」と思い出話に耽るという図を。
  そういう平安が彼らに訪れて欲しかったのです。

  映画があるようです。
  仲代達也が主演のようで、上映時間は全部で9時間半とか……。
  (本と同じで映画も3本に分かれているらしい)
  ケーブルでやってくれないかな。

  yumikapapaさん、オススメしてくださり、ありがとうございました。
  一生のうち、一度は読んでおかなくてはいけない本だと思いました。

2008/12/2  評価 A(B寄り)
東京島 桐野夏生 新潮社

32人が流れ着いた太平洋の涯の島に、女は清子ひとりだけ。
いつまで待っても、助けの船は来ず、いつしか皆は島をトウキョウ島と呼ぶようになる。
果たして、ここは地獄か、楽園か? いつか脱出できるのか―。
食欲と性欲と感情を剥き出しに、生にすがりつく人間たちの極限状態を容赦なく描き、読者の手を止めさせない。
谷崎賞を受賞したらしい。


  夏頃けっこう話題になった本。
  確かに、この先どうなってしまうのか、とまったく展開が読めず、ぐいぐい読み進んでいったけれど、読み終わった後、なんにも残らなかった……。
  でもなぜ評価が高いのか? 
  私に見えないものを、他の皆さんは見ているということか? 

  無人島に漂着し助けを待つ間、新たな社会を形成するという展開は、「蠅の王」を思い出した。
  あれは子供達だったけれど、こちらの大人達も同じように、なぜか原始人化していくようだ。
  人間同士の諍いもあり(ちっとも皆仲良くない)、ぎすぎすし、弱肉強食の世界、そして宗教が生まれる。
  なんでこうなるのか。

  でも、実際自分が同じ立場だったらと思うと、そこまで頑張って生きようとするだろうか。
  この東京島に流れ着いた人々は、多くが生きることに懸命だ。
  蜥蜴だって喰う。毛虫を食べた奴もいたらしい。
  そこまでしてなんとか生きよう(生きて日本へ帰ろう)とする執着心は、いま日本に生きる多くの人が忘れているものなのかもしれない? 

  でも本当に、なんでこの本、評価が高いのかな。

2008/11/19  評価 A(S寄り)
烏金 西條奈加 光文社

因業な金貸し婆、お吟のもとに現れた謎の若い男、浅吉。
お吟のもとで押しかけ居候を始めた浅吉には、実は秘密の目的があった…相棒のカラス・勘左とともに、浅吉が貧乏人を救う!
『金春屋ゴメス』の西條奈加が放つ超・時代エンターテインメント


  とても良い本でした。
  同じ著者の「金春屋ゴメス」シリーズとは違う物語で、こちらは本物の江戸時代の話。
  地に足が着いたストーリーで、キャラが立っていて、最後まで飽きさせません。

  「烏金(からすがね)」とは、朝金を貸し、夜までに返済してもらう、みたいな、小金の短時間貸しのことを言うらしいです。
  その烏金の貸し金を営むお吟はケチで、皆から煙たがられているのです。債務者も、どうにもこうにも借金がふくらむばかりで、まったく返せる宛がない、という人が多いのです。
  そこへ浅吉が、返済が滞っている債務者一人ひとりの相談に乗り、一緒に商売を考えてサポートしてやるのですが、そのアイディアが功を奏し、お金が回るようになってお吟への返済もきちんとされるようになる、というくだりが、実に素晴らしい。
  「商い」の原点を見る思い。
  人はこうやって一生懸命知恵を絞って生きていくのだ、と思い知った感じです。
  実に爽快な読後感でした。
  特に、親に捨てられ大人にだまされて自分たちだけで群れを作って窃盗をしながら生きていた子供達が、浅吉の説得にようやく耳を貸し、その話に乗って商売をするところは、涙が出そうになってしまいました。
  子供達と、お吟の債務者であった家格の高い長谷部家との関わりが泣けます。

  本当に心あたたまる良い本でした。
  商売による活力、生命力も感じます。
  甲州に戻った浅吉の活躍も見たいので、続編を希望です。

2008/11/12  評価 A(B寄り)
歳三奔る 〜新選組最後の戦い 江宮隆之 祥伝社文庫

タイトルと、カバーのあらすじの一行目「歳さん、俺たちはどちらかが欠けると駄目なんだ」に負け、読みました。
この作家さんは初。本も初めて知ったものでした。

読み始めて驚いたのですが、この本は甲陽鎮撫隊メインの本でした。
まず冒頭で近藤が撃たれ、鳥羽伏見で惨敗し、甲府城をめざすのですが、この甲府を目指すに至るくだりがとても詳細で、また、甲府にたどりついてから近藤が孤軍奮闘している様も丁寧に描かれていて、とても珍しかったです。

タイトルの「奔る」は、文字通り、土方さんが菜っ葉隊を求めて甲府から逆走する、あれを指しています。
きっともっと深遠な意味もあると思いますが、表面的にはそうです。

そういえば、映画でも甲陽鎮撫隊メインのがあったなあ、と思い出しました。
甲府の戦いは、土方目線ではかなり切ない戦です。
なんのために戦っているのか、を常に自問せざるを得ず、また、空しさを感じたに違いない戦いです。
このときは心底自分の無力を思い知ったことでしょう。

さて、この本のいいところは、第一に、近藤と土方の絆が深いことです。
カバーあらすじ一行目(前述)は伊達ではありません。
土方ピンの鳥羽伏見は負け、近藤ピンの甲府も負けた。二人揃わなければ駄目だ、ということを近藤が自ら口にしています。
私にとってなじみ深い、近藤土方の関係があります。オーソドックスでいい感じです。

2008/11/9  評価 A
ホルモー六景 万城目学 角川書店

「鴨川ホルモー」の番外編6編収録。
他大学の生徒やら、OBやら、焦点がいろいろに当たっていて面白かった。

一番楽しかったのは、一番最後の、織田信長の家臣と文通してしまう話です。
主人公の立命館の女子大生・珠実は、いじいじして苦手なキャラでしたが、バイト先(「鹿男あをによし」に出てきた「狐のは」という料亭)の蔵で、天正時代の人と文通してしまう、という設定がかなり面白くて、ラストも面白くて、最後まで飽きなかった。
なるほど、高村の彼女とはこの人か、と。
で、最後まで読んで、この本のプロローグを再読すると、また面白かったりするのだ。

あと、バカらしかったけど、明治維新にもホルモーがあったらしいことが分かる古文書の発見とか、東京の大学でもホルモーが行われていた(しかもオニ語にも方言があるらしい)とか、楽しんでしまいました。

Sさん、またしても貸してくださってありがとうございました!

2008/10/31  評価 A(B寄り)
鴨川ホルモー 万城目学 産業編集センター

葵祭の帰り道、サークル勧誘のビラを渡される。
「京都青龍会」という怪しげな名前のサークルだったが、食費を浮かせるために新歓コンパへ。
阿部は、「ホルモー」という得体の知れない渦に巻き込まれる。


  「鹿男あをによし」の作家さんのデビュー作。
  また貸していただけました。Sさんありがとうございます。

  馬鹿馬鹿しくもあり、目が離せない不思議な本でした。
  「鹿男あをによし」の、かりんとう兄弟みたいな関係がまた生まれ(阿部と高村)、二人の友情が楽しかった。
  大学生って、こうだよなあ、と。
  大人でもないし、子供でもないし、アイデンティティを探して浮き草みたいに漂っているそんな感じ。高村を見て、そう感じました。

  この本に登場するオニですが、私の頭の中では、飛騨高山のおみやげ屋で売っている「さるぼぼ」をイメージしていました。
  きっと読む人によって、いろいろなオニ像があることでしょう。
  私はさるぼぼをイメージして読んでいたので、実にファンシーな感じでした。

  「吉田の呂布」と「吉田の孔明」の対決も楽しかったです。
  しかし、女の子つかまえて孔明だの凡ちゃん(大木凡人に髪型が似ているらしい)だの、失礼だよ。

  この話、設定が京都というのが良いんだろうな、と思いました。
  京都は確かに千年以上にもわたる殺戮の街であり、多くの神仏も住まう街でもあるのだ、と。
  歴史が古い都というのは、いろいろな事が起こりうる、気がする。
  修学旅行で怪談話が炸裂するのは、そういう意味もあるのかも?

2008/10/26  評価 S(A寄り)
一瞬の風になれ 3 ドン! 佐藤多佳子 講談社

高校陸上部の日々を描いた作品、完結編。


  ものすごい爽快感。
  読み終わるのが勿体なかった。返却するのもいやだった。
  文庫になったら絶対買って再読しよう。

  3冊通して、ものすごい絆を感じた。
  リレーの4人だけでなく、ショートスプリントのみんな、同学年の部員、陸上部員全員、OBの先輩、学校の先生、クラスメート、親、家族、他校のライバル達、みんなみんなと繋がって、自分たちがいるのだと。
  自分を中心に、たくさんの人たちと関わっているのだと。
  みんなの思いに後押しされて前に進んでいき、みんなのことを思いやって、思い悩んだりする。
  その有りようがすごく純粋で潔く、眩しく、愛しかったです。
  つらいことも悲しいこともたくさんあるけど、生きることは楽しいことなのだと思えます。

  この本だけでなく、佐藤さんの本は、人と人との絆をすごく感じさせられます。
  私はそれが好きなんだと改めて認識しました。

  この本を読んでいて思い出したのですが、私が高校生の頃、「運動部の中でもバスケや野球とちがって陸上は個人プレイだ」と言った私に、クラスの誰かが「そんなことはない」、と言い返したことがありました。
  なんでそんな話になったのか、前後の脈絡は謎ですが、そのときその子は「晴夜ちゃん、陸上やったことないでしょう。確かに走るのは一人かも知れないけど、球技に負けないくらい、チームプレイなんだよ」と力説しました。
  当時は、「ほへ〜」と思っていましたが(確かに私は陸上はおろか、運動部に所属したことがないので実感なし)、この本を読んで、なるほどこのことか、と思い知りました。

2008/10/20  評価 A
鹿男あをによし 万城目学 幻冬舎

神経衰弱と断じられ、大学の研究室を追われた28歳の「おれ」。
失意の彼は、教授の勧めに従って2学期限定で奈良の女子高に赴任する。
ほんの気休め、のはずだった。英気を養って研究室に戻る、はずだった。あいつが、渋みをきかせた中年男の声で話しかけてくるまでは……。
慣れない土地柄、生意気な女子高生、得体の知れない同僚、さらに鹿…そう、鹿がとんでもないことをしてくれたおかげで、「おれ」の奈良ライフは気も狂わんばかりに波瀾に満ちた日々になってしまった!


  面白かった。ドラマ見ていなかったので、どういう話なのかさっぱり知らなかったのですが、こんなに奇想天外な話とは。
  主人公が、「サンカクを取り返さないと、富士山が爆発する!」と必死になればなるほど面白くて、電車で何度か笑いそうになってしまった。
  喋る鹿が、だんだん可愛らしく見えるようになり、姿を現さなかったキツネも、現したネズミも、みんな可愛く見えてきました。
  そのうち、主人公も、友達の藤原君(かりんとう兄弟)や重さんや、教頭のリチャードまでも、みんな可愛く見えてきて、なんだか佐藤多佳子さんの「しゃべれどもしゃべれども」を思い出したです。
  あれも、登場するキャラみんな可愛かった。

  人に聞いたら、主人公が玉木宏だったみたいで、意外でした。
  しかし、鹿島神宮と春日大社にそんな接点があったとは……。ホントなのかな〜。
  Sさん、貸してくれてありがとうございました!

  あ、そうそう、著者の万城目学さんですが、「まきめ・まなぶ」さんとお読みするらしいです。
  昔、鈴宮和由のマンガ「ブリザード・プリンセス」に万城目美姫という主人公がいて、「まんじょうめ」と読んでいたので、この著者も「まんじょうめ」さんだとずっと思ってました。人の苗字って難しいですね。

2008/10/15  評価 B(A寄り)
切羽へ 井上荒野 新潮社

静かな島で、夫と穏やかで幸福な日々を送るセイの前に、ある日、一人の男が現れる。
夫を深く愛していながら、どうしようもなく惹かれてゆくセイ。
今年の直木賞受賞作。


  なんか粗筋読むと、ドロドロの不倫物っぽいけど、全然そんなことないよ。
  「どうしようもなく惹かれていく」の意味が違うよ。
  だけどなんだかなー。
  読みやすいけど、読後感があんまり良くないかな。
  結局なにが言いたかったのか……。

  タイトルの「切羽(きりは)」の意味は、ラストに登場。
  トンネルを掘る時の先頭が「切羽」と呼ばれるものらしい。
  トンネルを貫通すると切羽はなくなるらしい。
  ……。
  だけど、この話の中身と切羽とがつながらないんだけど……。
  人生をトンネルに見立て、切り開いて前に向かって歩んでいく、という意味か?
  でもみんな、あったかい故郷の島で、ゆったりと暮らしているので、閉塞感や漠然とした不安感はあるかもしれないが、そんな「トンネル」に見立てるほどの切実さはないような気が……。
  ま、いっか。

2008/10/14  評価 A(B寄り)
夏から夏へ 佐藤多佳子 集英社

北京オリンピックでわかせた100m×4の男子リレーチーム。
塚原、末嗣、高平、朝原、そしてリザーブの小島茂之。
4人(+1人)の人となりや練習風景を綴った、ノンフィクション。
(といっても大阪で行われた世界陸上と、その後のことです。五輪の前に本が出てましたので、五輪のことは書いてません)


  佐藤多佳子だからという理由だけで読んでみたが、私はなんでこの本を読んでいるんだろう、と読みながら何度も思った。
  北京五輪の100M×4のリレーについては、確かに私は感動した。選手も知っている。
  だけど、こんなに彼らの人となりや練習風景を熟読しなくてもいっかな〜、と思ったり。
  ファンではないからさ。

  ただ、彼らアスリートの精神面はとても興味深い。
  スポーツというだけでなく、何か一つのことを極めているという意味においても、自分とは明らかに違う人種だと思う。
  面白いのは、究極、哲学者ぽくなっていくところだ。
  武道家もそうだが、自分自身と向き合うためか、どうも哲学になっていく。
  なんとなく体育会系というと、文系とは対極にあるような気がするが、行き着くところはそこなのか、と思うと面白い。
  また、リレーのメンバー4人の他に、リザーブという役どころの人がいることも初めてこの本で知った。

  短距離はあっという間だから、本当にその一瞬のために、彼らは毎日走り体を鍛えているのだと思うと、なんとなく切なくなってくる。
  でも、人の一生というのは、そういうことの積み重ねかも知れないです。


2008/10/12  評価 A
NIGHT HEAD DEEP FOREST 飯田譲治 講談社文庫

直人と直也が、超能力研究所で過ごした歳月は15年。
この施設を囲む深い森から出ることを許されなかった二人にとって、森は憎い存在であると同時に、自分たちを育ててくれた大切な存在でもあった。
彼らがこの地で体験した不可思議な事件と、森を脱出した二人が再度この地を訪れたときのエピソード3編を収録。


  ようやく入手!
  本書は「NIGHT HEAD」の完結編だそうで、前に感想を書いた1〜5巻とこの本で、全6冊となります。
  直人19歳の時のエピソード、22歳の時のエピソード、そして5巻の後の話(27歳か?)、の3本を収録しております。番外編ぽいです。
  (それぞれの時点の直也の年齢は、直人の年から6コ引いてくれ)
  いずれも舞台は群馬の森の中に建つ超能力研究所(及びその跡地)。
  なので、タイトルがDEEP FORESTなのであります。

  それぞれの話は面白かったし、直人たちの成長過程が非常によく分かり興味深かった。
  けど、やっぱり番外編という色が強いため、前5冊ほどはのめりこめなかった。(そう言いつつも相変わらずの吸引力でグイグイ読んでいったんだけどね)
  最終章(5巻の後の話)も興味深かったけど、ある意味無くてもいい話? まあ、兄弟が前向きに歩いていることが分かって良かったけれど。
  もう翔子は登場しないんだね。いつかまた遭遇するのかもね。

  しかし、こうやって3本読んで、直人を若い頃から順に追って見ていくと、あの直人を一瞬でも物にした麻理子ってすごいね!!
  麻理子の出番をもっと多く! 二人の相性も良さそうだ。
  (でも直人の心の100%を直也が占めているからな〜)
  そんな下世話な感想でいいんかいな(笑)
  あ〜、アニメが見たい! 映画も見たい!!


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