ずぅっと昔、Kanaそんな夢を見たことがありました。その街に出会うずっと前。初めて東京で団地というものを見た頃から、ずっと、引っかかっていた言葉。
あの日その場所に来てKanaは夢見た場所が本当に実在する事を知りました。
八月の暮れ、暑い夏の日、階段と緑と迷路のような古ぼけた団地群。噎せ返る草木の匂いとお焼香の香り。汗と土とほこりと虫と、そして寂れたけれどもどこかモダンな香りのする閉鎖に向かう歴史的建築物たち。
この街はセミの声と共に終わるのだと、その時Kanaは思いました。
夢の中のその場所をKanaは密かに「団地迷宮」と呼んでいました。その日その場所が実在する事を知り、そして同時にその場所が夢に帰ることを知ったのです。
|